平成26年度 寄附講座報告

 平成26年度 第17回 大阪商業大学公開講座「地域社会と中小企業」

 

 

第1回 4月17日(木)

 講義タイトル:「中小企業を取巻く金融環境について」

 講師:百武 健一氏(昭和46年卒業)

    京都中央信用金庫 審査部部長

 

〔講義内容〕

 百武様は昭和46年に大阪商業大学を卒業後、京都の伏見信用金庫に入庫されました。酒所として有名な伏見の酒屋を顧客の中心とした信用金庫でしたが、平成5年に西陣信用金庫を救済合併し存続金庫として京都みやこ信用金庫に庫名を変更し営業していましたが、平成12年に破綻、同時に破綻した南京都信用金庫とともに京都中央信用金庫に事業場とされ、百武様も同庫に入職され現在も審査部部長としてご活躍されています。

 現在の日本の企業は約420万社あるということですが、そのうち大企業と呼ばれるのは0.3%に過ぎず、87%は小規模企業であり、信用金庫は主にこの小規模企業を対象として融資を行っているそうです。

 平成2年の「総量規制」(不動産業者向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以内に抑制する)によるバブル崩壊や、平成20年のリーマン・ショックなどによる不景気で、年々中小企業の経営状態は苦しくなっているそうです。そんな中で信用金庫の融資担当として、お客様の会社のために役立つかどうかを常に考えて融資の判断を行っている、とお話しされていました。

 融資をするに当たっては、その企業が債務超過になっていないかどうか等、人が商売をして動いた結果が書かれている決算書をきちんと見て判断することが大事であり、また融資の担当者は実際に取引先へ訪れ、仕入先や販売先、エンドユーザーがどこかなど、現場を実際に見て把握することが判断の重要なポイントになるのだと述べられました。

 京都では全国に先駆けて、業績の悪化した企業に対し銀行や信用金庫と行政が協力連携して再生・経営改善支援のサポートを行っていて、企業が収支や経営内容・能力の見直しを図り「経営改善計画書」を作成し事業再生へ取り組む場合には、中小企業再生支援融資という制度が利用できるようになっているそうです。

 儲けのためだけに企業への融資を行うのではなく、常に顧客企業の事業がより良くなるようにとの思いで長年お勤めになられ、悪化した事業の再生に役立てる融資の仕事が金融の仕事の中で一番楽しいのだ、と語られたお姿は、まさに大商大の「世に役立つ人物の養成」という理念に適うものだと思いました。

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第2回 4月24日(木)

講義タイトル:「地域社会を支える中小企業~高齢化の進む地方経済と今後の課題~」

講師:藤室 伸一氏(昭和54年卒業)

   合名会社藤室商店 代表社員

 

〔講義内容〕

 昭和50年に大阪商業大学にご入学された藤室様は、学生時代はご自分でアルバイトをして学費を稼いでいたそうです。在学時には藤原昭三先生の授業を受けられ、「企業を判断する際は資本金や経営規模の大きさだけにとらわれることなく、小規模でも地方で立派な理念や哲学を持って地域社会のための経営をされている方々がたくさんいることを知っておいて欲しい。」という言葉に、ご自身の状況に当てはまる所もあって深く感銘を受けられたと仰っていました。

 三重県伊賀市(当時は上野市)にお住まいであったため、通学時の電車内でよく本を読まれたそうで、推理小説から始まり政治経済や思想の本などを読まれるようになったそうで、それが現在の自分にとって大きな財産となっているとのことでした。

 藤室様の学生時代は、ちょうど田中角栄氏が日本列島改造論を唱えた頃で、地価が高騰し景気が上昇しましたが、第1次オイルショックにより高度経済成長からマイナス成長へと景気が大幅に動いた時で、家業である石油卸・小売業も大きな影響を受けたそうです。

 ご卒業後、家業に入られた最初の頃は会社の利益を最優先に考えてばかりいた、ということでした。しかし40代になってお父様がご病気をされ実際の経営を担うことになると、仕事と地域社会との繋がりを強く感じるようになり、利益最優先というお考えが変わっていったそうです。

 現在、伊賀市では人口の減少と高齢化問題が深刻化しており、大規模な複合商業施設の出店等で地域の卸・小売事業所数が激減するなど、中小企業にとって苦しい状況となっているそうです。経済の自由化に伴い価格競争が激化して弱肉強食の時代となる中、大企業に対抗するために中小企業はどのように対応していくべきかが大きな課題となります。

そこで藤室様が仰っていたのは、自社の利益のためだけでなく、お客様のために、という「利他主義」の心が大切だということでした。ちょうど東京オリンピック招致でも話題となった「おもてなし」の心を持ってサービスを提供することが、生き残りのための重要なポイントではないかとお話しされていました。

 最後に学生達に向けて、ご自身の経験を踏まえて「本をたくさん読み、学んで下さい。そして自分の頭で考えて下さい。」とのメッセージを強く発しておられました。

 多くの地方都市が人口減少と高齢化に悩む中、理想をもって問題に取り組むことで地域社会をより良くしていこうという思いがとても強く伝わる講義であったと思いました。

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第3回 5月8日(木)

講義タイトル:「トイレタリー業界の変遷と現在」

講師:内田 克宏氏(昭和43年卒業)

   株式会社内金 代表取締役社長

 

〔講義内容〕

 内田様は昭和43年にご卒業後、大阪で阪神高速道路公団にお勤めされていたそうですが、三年後、地元である三重県伊賀市に戻られ、株式会社内金に入社されました。化粧品・日用品・雑貨の卸問屋として卸業を営まれてきた中で経験してこられた小売業の変遷について、講義で色々と語って下さいました。

 昭和30年代から40年代にダイエー、イトーヨーカドー、ニチイ、ジャスコなど現在の大手小売業が次々と開業し、昭和50年前後にはコンビニエンスストアのセブン-イレブンやローソンがオープンし、小売業界は大きく変化していきました。

トイレタリー商品として画期的であったのは、昭和52年に発売となった紙オムツで、それまでの布オムツに取って代わりよく売れたそうです。また、昭和53年には琵琶湖の富栄養化に起因する赤潮発生の原因が合成洗剤に含まれるリンであるとされたことから、合成洗剤の使用をやめようという運動が起こり、日用品業界は大変だったとのエピソードもありました。

昭和60年頃のバブル期には、高額のシャンプーなどがよく売れていたそうですが、平成3年にバブルが崩壊し景気が悪化すると、世間は価格の安いものを求めるようになりました。その後海外生産の物を安く販売するユニクロや100円ショップが台頭し始め、小売業には厳しい時代となりました。

消費者が安さばかりを求めると、小売業は「商売=安売り」のように商いをしてしまい、結果として薄利となり商売が成立しなくなってしまう、と内田様は「適正価格の必要性」について強く語っておられました。

今後は人口が減少し、地方では高齢化が進み小売業の競争が激化すると予想され、東京に経済や文化が一極集中し地方が低迷することへの危機感を抱いておられました。

内田様は三重県猟友会の会長も務めておられるそうで、全国的に野生の猪・鹿・猿・アライグマなどが出没し様々な被害が出ていて、猟友会でも高齢化問題による会員の減少で対応しきれず、今後被害の拡大が懸念されるとお話されていました。

最後に、これから社会に出て行く学生達へ、近江商人の言葉「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)という商売を心がけて一生懸命働くこと、富山の薬売りの「楽すれば楽が邪魔して楽ならず楽せぬ楽がはるか楽楽」という言葉を紹介され、楽せずに自分に苦労をかけてなまけず働くことの大切さを説いておられました。

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